福岡地方裁判所直方支部 昭和41年(ワ)44号 判決 1968年2月21日
主文
被告が、訴外相葉信雄に対する福岡法務局所属公証人下川久市作成第一四三〇二七号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基き、別紙目録記載の物件についてなした強制執行は、これを許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本件につき、当裁判所が昭和四一年七月七日になした強制執行停止決定は、これを認可する。
前項に限り、かりに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求原因として、
一、被告は、訴外相葉信雄に対する福岡法務局所属公証人下川久市作成第一四三〇二七号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基き、昭和四一年六月二九日別紙目録記載の物件(以下本件物件と略称する。)につき強制執行をなした。
二、しかしながら、原告は、右訴外人から、同人所有の
鞍手郡鞍手町大字木月一二三七番地の一
一、宅地 四二四坪四合二勺
同所所在
一、木造瓦葺二階建居宅一棟
建坪 六四坪二合
につき、昭和三八年一〇月八日頃、債権極度額金一五〇万円の根抵当権の設定を受けており、本件物件は、当時右宅地の従物として、右宅地内の庭に定着して備付け、若しくは植樹されていた、あるいは抵当権の目的たる右宅地に附加してこれと一体をなしていた庭石、灯籠、植木等であつて、包括して右根抵当権の目的となつている物件であり、主物たる右宅地と独立して、右抵当権の拘束を離れて処分しうる有体動産ではない。
三、しかして、若し本件物件が、右宅地と独立分離して競売されるならば、原告は、右従物に対する抵当権を失い、抵当物件全体の担保価値を著しく減損されるから、執行債権者たる被告に対し、右強制執行の排除を求める理由がある。
と述べた。
立証(省略)
被告控訴代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との旨の判決を求め、答弁として
請求原因一、の事実、及び原告主張の宅地上に原告の抵当権が設定されていること並びに本件物件が右抵当地上に存することは認める。
その余の原告主張事実は否認する。
と述べた。
立証(省略)
理由
請求原因一、記載の事実、及び原告主張の宅地上に原告が抵当権を有すること並びに本件物件が右抵当地上に存することは当事者間に争がない。
成立に争のない甲第一号証、甲第二号証の一乃至二〇、甲第三号証、証人相葉信雄、同原田六男、原告代表者本人尋問の結果並びに検証の結果を綜合すれば、訴外相葉信雄は、原告と、昭和三八年一〇月八日、原告と訴外相葉文子間の昭和三八年一〇月八日付当座貯金取引約定に基き、現在及び将来に亘り訴外相葉文子が原告に対し負担する債務(限度額金一五〇万円)の担保として、訴外相葉信雄所有の鞍手郡鞍手町大字木月一二三七番地の一、宅地四二四坪四合二勺その他の物件につき、根抵当権の設定をなすことを約定し、同年一〇月一〇日、右根抵当権設定登記をなしたこと、本件物件は、右根抵当権設定前に、右宅地の所有者が右宅地に庭園としての風致を与え常時観賞の用に供するためにその宅地に附設した物件であり、右根抵当権設定当時は、あるもの(取外しのできる石灯籠、庭石等)は、なお右宅地の常用に供するためこれに附属させられている従物であり、他のもの(取外しの困難な植木、庭石等)はすでに右宅地の構成部分となり、これを取除くときは右宅地の経済的価値を著しく損じる状況で、総じて右宅地に附加してこれと一体をなしていた物であつて、右根抵当権設定契約には、これらの物を抵当権の効力の及ぶ範囲から除外する別段の定めはなく、右設定契約は抵当権の効力がこれらの物件にも及ぶことを当然とした趣旨であることが認められる。
そうすると、原告は、右根抵当権により、その妨害排除として、本件物件が、右宅地との附加一体関係を解消せしめられ、独立の動産として抵当権の効力外に逸出するのを防止する権利、すなわち、右物件の譲渡若くは引渡を妨げる権利があるというべく、この権利により、執行債権者たる被告に対し、右物件についての強制執行の排除を求めうるものと解するのが相当である。
よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可及び仮執行の宣言につき同法第五四九条、第五四八条を適用して主文のとおり判決する。
(別紙)
物件目録
鞍手郡鞍手町大字木月一二三七番地の一
一、宅地 四二四坪四合二勺
内の庭に存する左記物件。
差押番号 物件名 数量
四二 庭木 梅 二本
四三 同 金モクセイ 一本
四四 同 貝塚伊吹 二本
四五 同 つゝじ(五月) 三本
四六 同 桃 二本
四七 同 松 一本
四八 同 梅 一本
四九 同 桃 四本
五〇 同 柿 一本
五一 同 ばしよう 二株
五二 同 梅 二本
五三 同 仁葉 二本
五四 同 貝塚伊吹 一本
五五 同 モチの木 一本
五六 同 マキ 二本
五七 同 つゝじ(淀川) 一本
五八 同 つゝじ(五月) 七本
五九 雪見灯篭 一個
六〇 庭木 棒かし 一本
六一 同 金もくせい 一本
六二 同 ボケ 一本
六三 同 豆ツゲ 一本
六四 庭石 大 一五個
六五 同 小 四〇個
六六 庭木 梅 三本
六七 同 棒かし 二本
六八 同 つゝじ(淀川) 三本
六九 同 つゝじ(五月) 一五株
七〇 同 山茶花(シヽガシラ) 一本
七一 同 貝塚伊吹 一本
七二 石灯籠 五個
七三 庭木 金モクセイ 一本
七四 同 紫丹 一本
七五 同 トガ 一本
七六 同 マキ 二本
七七 同 ヒヨーヒヨー(シバ) 一株
七八 同 紅葉 一本
七九 庭石 大 四〇個
八〇 同 小 五〇個
八一 石灯籠 六個
八二 飛石 二〇個